私がまだ14歳くらいの子供だった頃、ネットはあまり発展していなかった。自宅にもネット回線を引いていなかったので私がネットに触れられるのは週に一度程度しかない。PCの自由授業とデパートの電化製品店にあるごくわずかなネットにつながったPCのみだった。
ネットに恋焦がれる私は、電化製品店でネットにつながったPCの位置を覚えラミィの冒険やらオンラインオセロやらをちまちまとやってたまに来るチャットにひたすら興奮していた。それができるのもほんの僅かな時間だったがとても幸福に満ちた時間だった。
それでもその方法は確実といえるものではなく、店の配置転換でネットにつながったPCそのものが撤去されたり、大手販売店の登場で小さな電化製品店はどんどんつぶれていった。
だから私が確定してPCに触れるのは中学校の自由授業の時間だけだった。私の学校はインテリよりも体育会系のオラオラ生徒が多かったためパソコン部なんていう根暗を象徴するような部活動もなかった。(そんな部活動があったら真っ先にいじめの対象になって殴られるくらいには治安も学力も悪かった。力こそ正義)
それでも参加した30人の生徒が一斉にネットにつなげようとするためあまり負荷のかかるようなアプリケーションは使えなかった。
そんな中、私が見つけたのはFF Battleというブラウザゲームだ。
色つき文字、テーブルレイアウト、天文学的数字と化したステータス……。現代におけるような美麗なグラフィックも60FPSの銃の撃ち合いもない、ただ淡々とキャラクターのレベルを上げるだけのゲーム。こんなもののどこが面白いのだろう。
だがはまったのだ、この単調で狂った数字だけが蔓延るただのブラウザゲームに。
きっと当時は今以上にこのゲームを楽しんでいたと思う。何度も何度もリロードして、クールタイムの十数分があけるの心待ちにして、自宅でもこのゲームが出来たら……胸を焦がれさせていた。
なぜあんなに面白かったんだろう。今となっては理由もわからない。
私はもう一度、このFF Battleを遊んでみることにした。
キャラクター作成
基本的には一人につき1キャラクターが推奨されている。
今でこそプレイする人数はそんなにいないが、当時はこのゲームのユーザーがとんでもない数になっており、大人数がサーバーにアクセスするため負荷が膨大だったのだ。
キャラクターの絵となるアイコンが豊富に用意されており特にFF関係のドット絵がたくさんある。今ではアルクェイドなどFateのセイバーとまではいかないがそれに近いキャラクターもあったりする。
セイバーはいないけどなぜかライダーがいたりする。とにかく豊富なドット絵から選べるので本気で選ぼうとするとそれだけでドつぼにハマる。
ちなみのこのドット絵はファンが作ったドット絵で公式のものではない。
最初の段階で初期のステータスを振ることが出来る。ボーナスポイントは画面をリロードするとランダムで変わる。だからなるべく高いボーナスポイントになるように何度も更新をかけたりするのだが、F5アタックしていると当然にサーバーに負荷がかかる。それを当然理解しているネチケットを携えた先人たちはやらない。ネチケットが上手く機能していた時代だと思う。
ボーナスポイント4はかなり低い値だがとりあえずこれでスタートだ!
職業は昔から魔法使いになるのが夢だったので黒魔道士にしたぞ!
これが実際のゲーム画面!武器を買ってキャラクターを強くしたりダンジョンでレベルを上げたり出来る。1回行動するごとにクールタイムが発生するので連続して行動ができないようになっている。
リアルタイム人数が多ければ多いほどそれだけ負荷がかかりその分だけクールタイムも多くなる。昔は人数が100人とか普通だったので10分とかそれくらい待たされることもザラだった。
画面の下部には攻略情報などのリンクがある。「ネチケットを学ぶ」というリンクが昔の時代を象徴するようだ。このリンクをたどるとネットマナーのリンク集に飛ぶ。
昔の先人たちはこうやってネットマナーを学んでいたのだ。今ではネチケットという言葉は死語と化してしまいネットゲームの風紀は地に落ちてしまったが、ゲームのどこかにこうした案内があれば変わっていたかもしれない…。
戦ってみよう!
登録して一番最初はチャンプに一度挑むのが道筋。たまに勝ってお金をたくさんもらったりすることもある。まさにロマンだ。
さっそくチャンプに戦いを挑んでみよう!
リアルタイム人数が極端に少ない現状、当然のごとく負ける。昔は運がよければ勝てたりしたけど。
とりあえず義務は果たしたのでさっそく初心者の森にでも行ってみよう!
勝てない。
勝てない。
勝てない。
何度やっても勝てない。
そうだ!好きなキャラと対戦でLv1の他の人のキャラクターと対戦させよう…。きっと勝てるはずだ!
ギャーーーー!!
黒魔法ファイガ!!
やった!必殺技が出たぞ!!
2ターン目で負けた……。必殺魔法ファイガでも削りきれなかった。
勝てない。どうして…。
改めてステータスを見たところ、先ほどのチャンプ戦でHPが1になっていたためワンパンで殺されていたのだ。そりゃ勝てるわけがない。宿屋でHPを回復させよう!
お金がないから回復できないと表示された……。
実は……
実は先ほどのチャンプ戦でお金を盗まれていたのだ!
しかも額が16進数と化した天文学的数字のためゴリアテの財布はすっからかんになっていた!
しかも武器も防具も買わずにチャンプ戦をしてしまったため、武器や防具を買ってステータスを引き上げることも出来ない。昔やったときはチャンプにお金を盗まれるなんてなかったので想像外だった!
最初に7500Gあったのでメイジスタッフくらいは買えたはずなのに……。餌を目の前に塗れた野良犬のような目で見つめることしか出来ないゴリアテ…。
HPが1しかないのでちょっとした攻撃で死ぬ。何回やっても勝てない…勝てないから経験値が入らない…レベルが上がらない…。
積んだ。
パーティ申請してだれかに拾ってもらうしかない。
捨てられた野良犬のような目で誰かに拾われる日を待つゴリアテであった。果たしてこんな過疎ゲーでしょっぱなから積んだ初心者を拾うユーザーが現れるのであろうか?