痛々しい、目も当てられない、30代女性の心をナイフでグサグサ刺すと話題の東京タラレバ娘を読みました。作者は「主に泣いてます」や「海月姫」で話題の東村アキコです。今回は東京タラレバ娘の感想を書いていきたいと思います。
正直、この人の漫画はおもしろいときとつまらないときと寒いときの落差が激しすぎて好きではないのですがこの東京タラレバ娘はさっぱりと読めました。
人の深い孤独を扱っているというのもあるからかもしれませんが。
ボロボロ独身アラサー女の阿鼻叫喚
主人公の倫子は33歳の脚本家。逆転黙示録カイジのように毎晩、安い酒を飲みながら己の孤独と世間に対する愚痴を友人たちと一緒にはきまくるといううだつの上がらない生活をしていました。
もはや男性には食事をおごってもらえることもなく最後に恋をしたのは10年前。あの時ああしていれば、こうしていたら、過去の栄華にすがりついた彼女たちのあだ名はタラレバ娘。
酔いつぶれて転んでも男性は手を貸してくれずおばさん扱い。30代女性の惨めさを嫌というほど感じさせる嫌な漫画でした。
そんなわけあるかい。
恵まれた幸せな環境に気づかない女たち
例え独身だろうが恋人がいなかろうが子供がいなかろうが彼女たちには普通の女性がないものを持っています。金と職と地位、そして名誉。ついでにいえば大人になってからは得難い友人までいる。これ以上何を望むんだ。
2010年のリーマンショックに追い討ちをかけるように2011年に訪れた大震災による超就職氷河期。正社員にもなれない、アルバイトにもなれない、そんな若い子が数え切れないほどいるこの世の中で、この人たちは30代の平均年収を知っているのでしょうか?
終身雇用制度は崩壊し派遣社員やアルバイトが当たり前、しかも20代の若い子ですらまともな職にありつけない。そんな冷え切った時代での主人公の職は「ベテラン脚本家」。
世の中どれだけの人が脚本家なりたいと思うでしょうか?なりたくてもなれない、みんなの憧れの職業ですよ。憧れと羨望、そして嫉妬。しかも弟子までいる。
独身なんていうくだらない理由で一喜一憂。この登場人物たちの特徴は、既にベテランで高いステータスの賢者クラスなのに、心はいつまでもたまねぎ剣士の気分なんですよ。
独身女の阿鼻叫喚じゃなくて成功者がさらに欲を出して痛い行動に走ってるだけ。正直共感できる面なんてひとつもありません。
当たり前になった恵まれた環境、他人からの優しさ
このタラレバ娘たち全員に共通するのは美人であるということなんですよね。仕事も金もステータスも恵まれてるんですけど、今まで男にもほどほど苦労することがなかったんです。
食事はいつもおごってもらえる。酔いつぶれれば手を貸してもらえる。自分が頼まなくても男の人がエスコートしてくれるそんな環境だったんです。
それはいつしかやってもらって当然という意識に変わってしまいました。彼女たちはそうやって他人にしてもらううちに、他人に感謝する心を失ってしまっているんです。
だから回りも冷たくなるし扱いも杜撰になる。そんな心の腐った人間に対してなぜ優しくしなければいけないのか、そりゃ酔いつぶれたら「自分で立てよ」といいたくもなります。あんたらもう大人なんだから。自立した大人が、いつまでも男に頼ってばかりの頭のゆるい女と同じ行動をしていたらそりゃ痛いです。
恋愛に対しても男に対しても自分勝手
こいつら愛が欲しいとか男に優しくされたいと嘆く割にかなり自分勝手なんですよ。多分前述したやってもらって当たり前って神経があるからだと思うんですけど。 それが良く現れているのが第一巻のこの話。
倫子が10年前に振った男「早坂」。早坂が10年経った今、再度自分に告白すると思い込み、浮かれる倫子。
しかし早坂が告白しようとしていたのは倫子ではなく19歳の女の子であることを知り激しく傷つきます。
この話すごい身勝手なんですよ。これ自分から振っておいて早坂が王子様になったから「付き合ってあげる」ってスタンスなんですよ。
「あなたがとても魅力的なことに気づかなかった。昔振ってしまってごめんなさい。私と付き合ってください。お願いします」と頼み込むのが普通でしょう。
上から目線なのは倫子だけではありません。その友人「香」もかなり身勝手です。
この香、昔分かれた彼氏と再会し、寄りを戻すことになるのですが、その彼氏には本命の彼女がいました。つまりは第二の女。いや、もはや何番目かもわからない。その事実に酷く傷つきながらも堕落した関係を捨てることができない。
しかしこの香、そもそもお前が浮気しなければ彼氏と別れていなかったんです。バカな10年前の自分がフラリと現れた医者に上手に丸め込まれてほいほいついていった挙句、浮気がばれて彼氏と別れることになった。
自分が浮気して彼氏を傷つけて置きながら、立場と一緒に態度がころりと変わる。自分が浮気して人を傷つけておきながら悲劇のヒロイン気取り。
お前はどんだけ上から目線なんだよ。まずはごめんなさいが先だろ!今の彼氏が浮気性になったのはお前が裏切ったせいかも知れないんだぞ!といいたくなります。
でも彼女たちはそんなこと思いもしない、気づきもしないでしょう。それはプライドが総じて高いからなんですよね。今までチヤホヤされてきたから基本男を下に見てるんですよ。だから気づかない。
新人気分のベテラン脚本家
3巻では主人公の脚本家としての仕事がテーマとなります。仕事を若い女性脚本家(枕営業)に奪われ干されてしまう主人公でしたが、とあるきっかけにピンチヒッターとして脚本に携わることになりました。
今まで作ってきた脚本とは180度違う脚本に戸惑う主人公。「ピンチをチャンスに変えて見せる」と意気込をみせます。今までにない表情で。
そして一瞬で「30歳を過ぎたらチャンスはピンチだ」と一蹴される。
仕事はある境をすぎればできて当たり前、数字を出して当たり前になります。できて当たり前だから褒められるわけがないし、できなければ死ぬほど叩かれ責任を負わされる。別に30代女性だからとか限らずすべての人がそう。
正直良いこと言うなあと思いました。
一見厳しいようにみえますがうらやましい立場ですよ。普通ないですから、クライアントがスタイリストまで連れてきて頭を下げて仕事を頼むなんて。
彼女の立場を認めているから頭を下げるんです。それが損得勘定と利害関係による協力関係だとしてもどれだけ稀有なことか。
彼女はもうベテランで経験も地位も名誉も金も実力もすべてを持っている。なのに心はいつまで経っても新人のまま。若くてバカな10代の女が優しくされているのを見てうらやましく思っている。
たしかにベテランは責任も大きい。でもそれと同じくらいの信頼も持っている。その自覚がないから主人公はおかしい。
逆を言えば新人は期待などされていない。責任もない。失敗しても誰かが責任をとってくれる。才能を発揮できて当然。むしろできないほうがおかしい。
3年経っても実績を出せなければお茶汲みまで落とされ、いくら若かったところで見向きもされないでしょう。
専業主婦という逃げ道
仕事でボロクソに正論を言われ、ムキになった倫子は男に走ります。専業主婦になれば第一線を退いてセコンドに回れる。戦いの日々から開放されてサポートに回れると。
正直この考えはすべての女性の前提にあると思います。でもそれって結局自分の辛いことを人に任せて楽がしたいだけなんですよね。
自分が楽をする分誰かが戦わなければいけない。嫌なことや辛いことは全部男に任して楽がしたい。そんなのはあまりにも身勝手すぎますよね。
でもすべての女性にはそういった考えがある。女性だけじゃない、男だってそう思っているでしょう。結婚すれば女は働かなくて良い。女性がもつ現実的とも言われる考えと怠惰な生活に対する憧れが「独身女は悲惨」という一般論につながるわけですがその本質はひどく醜悪。
女は結婚すれば辛いことは全部男に任せて楽ができる。その楽ができないから独身の女の末路は悲惨。金があっても名誉があってもあいつは独身だからずっと戦わなければいけない。だから哀れ。
怠惰で自堕落な人間が一生懸命働く人間をバカにするという珍妙な光景が出来上がります。そんな考えの裏で今でも多くの人が辛い戦いの日々を送っていることに気づきもしない。この演出はそういった世間の一般論に怒りを感じさせる巧いシーンだなと思いました。
まとめ
浮気性の元彼、不倫が趣味の駄目男、このように登場人物のすべてが駄目な人間で構成されている漫画ですがこの点は「カイジ」や「私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い」と共通する部分があると思います。
人間は完璧じゃない、誰でも駄目な部分を抱えている。
そりゃあ完璧でイケメンでヒーローのような男にみんな憧れるかもしれない。でもやはり駄目だからこそ共感できる部分がある。人間欠陥があるからこそ、その人のことから目を離せなくなるのだと思います。
駄目な人間がこれからどう行動し、どう成長するのかが気になる漫画でした。
ちなみにKEYと倫子の恋愛の行く末ですが、仕事上の関係で終わると思います。正直、仕事・・・というか自分の使命を大事にする印象を持ちました。一巻のラストも仕事の行く末を左右する故の行動だと思いますし。
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